Chapter 3 「思惑《おもわく》」

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「中学生だよ?仮に今付き合ったとしても別れる可能性の方が高いじゃないか」  初恋の人とゴールインする人間なんてなかなかいない。ましてやそれが中学生の時の恋人となんて、一体どれ程の確率か。 「それはどうだろうなぁ。一般論ではそうかもしれんが、何事も例外はあるだろう?」  父さんは自分の胸をトントンと叩いた。 「あぁ、まぁそれはね……」  僕は目を逸らした。  逸した視線の先には、縦長のクローゼットがあった。下側は三段の引き出しになっており、(きり)で出来ているらしい。  あの扉の中には、僕が逃げ続けた罪が詰まっている――。  だから、僕は未だにあのクローゼットを開けた事が無いし、中身をきちんと確認した事も無い。 「でも本当に違うから。小鳥遊……さんは救急車を呼んでくれた恩人だよ。たまたまいつもの辻で会っただけ」 「……そうかい、つまらんなぁ」  何となく気まずい雰囲気の中、父さんはゴクリとビールを飲んだ。 「まぁ、適当に頑張れよ。でも一つだけ約束しろよ」  長い銀の釘を刺す様な鋭い声。  ビールを飲んでいる人間とは思えない程、急に真剣な目をするものだから、僕も思わず手を止める。 「どうしても危ない橋を渡るなら、一人で抱え込もうとするなよ。命綱は常に着けておけ――」 ***  白以外の色を見ると安心する。  久しぶりの自室のベッドに深く身体を預ける。  味気無い病室に閉じ込められていると、どうも脳が麻痺してくる。情報量が少ないと、人はストレスを感じると、以前見たテレビで言っていた。  確かにそうだ。僕はまさにそれを身を持って体験した。  明らかに隠し事をされているのに、何一つ情報が得られない。そのもどかしさはよく知っている。  小鳥遊の話でも、結局全てが白日(はくじつ)の下に晒された訳では無い。 「はぁ……。明日から登校だけど、大丈夫かなぁ」  情けない呟きは天井に吸い込まれて消えた。  ――ピリリッ、ピリリッ。  その時、冷たい機械音が鳴った。
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