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*May 17th
――僕は酷く緊張していた。
朝霧中学校の門前で立ち尽くしている僕を見て、登校して来た生徒達が怪訝な顔をして通り過ぎて行った。その他人の顔色に意味を探してしまって、吐き気がする。
昨夜、僕の入院費用の話をしたら、父さんは笑った。「そんな事、子供が気にするな」と。適当な嘘で怪我を誤魔化した事にも気付いているだろうに……本当に申し訳無い。
でも、やはり巻き込む訳にはいかないのだ。父さんだけは、悲しみや苦しみから一番遠い所にいて欲しい。
「はぁ……」
考える程、溜息が漏れる。
そう言えば……隣町に通っている父さんも、果たして儀式の対象になるのか。天葬が朝霧町の住民に限定される事は理解したが、贄になる人の基準は不明だった。住んでいるのは朝霧町だから、どうかなと思ったが、よく分からない。先行き不透明な間は心配をかけさせたくなかったのたが……。
いつも通り朝食を作り、ダイニングテーブルで向かい合った時も、何となくギクシャクしていたのは、僕が本当の理由を話すのを待っていたからだろうか。
本当にごめん、父さん。
深呼吸をすると、朝霧の残った冷気が肺に広がった。
その冷たさに気持ちを入れ替える。
そろそろ行かないと。チャイムまでのタイムリミットを確認するために、ポケットに手を突っ込む。僕は長い時間をかけて、一歩踏み出そうとした。
「――気をつけて、鳳君」
ビクリと心臓が跳ねる。踏み出した足が少しぐらついて、何とか体勢を整えた。
ついでに時間を確認しようと手にしていた携帯電話を、危うくゴツゴツした地面に落とすところだった。
慌てて振り返ると、不思議そうな顔をした小鳥遊鳴が後ろに立っていた。
「驚かすつもりは無かったんだけど。何してたの?」
朝日に濡鴉の髪が光っている。綺麗だ。
どうやら学校に来るという約束は本当だったらしい。
「おはよう。小鳥遊が学校にいる姿を見るのは新鮮だね」
「そう?まぁ、ほとんど来ないからね」
小鳥遊は素っ気無く言った。
改めて小鳥遊を見ると、黒のセーラー服に紅いスカーフという伝統の制服が、これ程似合う人間もなかなかいない。古典的な装いが、小鳥遊によく似合っていた。
本当に烏みたいだな――。
「正直……来ないかと少しだけ思ったよ」
「約束だから。私が貴方に話してしまった責任」
責任、か。たった二文字がどんな巨岩より重いなんて不思議だ。
その言葉に押し潰されないよう、ギリギリで踏ん張る事しか出来ない僕。すでに潰れかけの僕は、それをいつまで支えられるのだろうか。
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