Chapter 3 「思惑《おもわく》」

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「鳳君、携帯電話持ってるんだ」  小鳥遊が僕の手に視線を落とした。 「まぁね。今時は持っている人も多いんじゃないかな。日向さん達も持ってるし」  近年、中学生でも徐々に携帯電話を持つ人が増えてきた。塾や習い事等の、学校外の活動が急増しているかららしい。  ちなみに僕が携帯電話を持っている理由も、(おも)に父さんとの連絡手段だ。二人暮らしだからもし何かあった時の為に必要だ、と。  そもそも有事(ゆうじ)の際に連絡出来る環境にあるか疑問だが。 「そう。四六時中誰かと繋がっているなんて、物好きなのね」 「安心するんじゃなくて?」 「まさか。常に監視されているみたいで好きじゃない」  やはり小鳥遊は変わっている。  そのまま小鳥遊は賑わう昇降口へ向かって行った。 「マイペースだなぁ……」 「何?」  小鳥遊がくるりと振り返った。  小声で言ったつもりなのに、聞こえていたらしい。 「いや、何でも無い」  腕時計を確認すると予鈴五分前だった。僕も慌てて小鳥遊を追った。 ***  約ニ週間ぶりの学校。三年生のフロアに着いた途端、"それ"を感じた。  それまで楽しそうに他愛も無い話をしていた女生徒達が、僕の姿を認識すると珍獣でも見つけたかの様な目の色をするのだ。  怪訝(けげん)そうな顔をして何かを話している様子が酷く不愉快だ。何故なら、彼女達は僕の噂をしていたのだから。 「どうして……」 「何か特別な人なのかな」 「贄にならなかったなんて……許されるの?」 「と言うか、そんな事可能だなんて、そっちの方がびっくりだよ……」 「四月に入って吹奏楽部のピアノ担当の人が亡くなったばかりだもんね」 「可哀想に、ね……。将来有望だったらしいじゃん」  悪意無き詮索の言葉が僕の胸に刺さる。なるべく聞かない様に、耳を澄ませない様にしていたが、それでもやはり気になってしまう。  ――小鳥遊が言っていたのはこういう事か。  確かに少なくとも良い気分ではない。そもそも僕は"そういう(たぐい)の事"が大嫌いだった。  誰かを落とす事でしか自分を上に見せられない――そんな腐り切ったプライドを持っている人も軽蔑(けいべつ)している。  まぁ、他人の事を()(かく)言っても仕方が無いが。 「行こう。鳳君」  視線を進行方向に向けると、小鳥遊が待っていた。先に行ったのかと思っていたが、僕の事を(おもんぱか)って……かは分からないが待っていたらしい。  そのまま後を追って、最早懐かしささえ感じる三組の教室の扉を、手汗で滑りながらゆっくり開いた。
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