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「巫女様なら、遅れて来るって鳰先生に連絡来たみたいだよ」
スミスミが言った。
「日向さんは?」
「どうなんだろうね。……何となく理由は想像つくけど、もしかしたら今日は来ないかもね」
スミスミは顎に手を当てて目を閉じた。
「まぁ、もうすぐ始まるからな。それにしてもよ――」
マツケンは僕の顔を一瞬見て、直前まで出かかった言葉を飲み込んだ。その前の発言も気になるが、今は天葬の事で頭が支配されていた。
怪訝に思った僕と目が合うと、マツケンは分かりやすく視線を泳がせる。
――聞きたいけど聞けない、という感じだろうか。
「……いや、いいや。後で話す」
言葉を濁した理由は想像するまでも無い。原因は他でも無い僕なのだから。それならばお望み通り誘導してあげよう。
「……僕が今ここにいる理由、違う?」
「……まぁ、な」
頭を掻きながら小さくなっていく声に、僕は内心笑ってしまった。ここまで分かりやすく態度に出る人間はいない。それが松鵜謙也という男だ。
「だってよ、"アレ"に巻き込まれたら――」
――キーンコーン……カーン……。
古びたスピーカーから鳴る劈く様なチャイムが学校を震わせた。
肝心な時に僕の邪魔をする忌々しいチャイムだが、今置かれた状況的には有難かった。
誘導するなどと大層な事を思いながら、僕自身は完全に気持ちの整理が出来た訳では無かったからだ。
「また後で話す。……放課後、よろしくな」
マツケンは僕だけに聞こえるように小声で呟いた。
僕にとってはその約束こそが本命だ。
だが、相手が小鳥遊ならともかく、マツケンには期待し過ぎない方が良いだろう。彼はしきたりを馬鹿にしているが、天葬についてだけはいつも口を閉ざす。
恐らく、天葬関連で何かがあったのだ。
己の思考パターンを変える大きな出来事が――。
五月蝿いチャイムが鳴り終わると、機械人形の様に自席に戻るクラスメイト達。僕も自席に着いて、教科書を探しながらふと小鳥遊の方を見ると、嘘みたいに晴れ渡る窓の外を微動だにせず見つめていた。
空には自由に飛び交う漆黒の烏が二羽。
その時、小鳥遊の唇が何か呟いた気がした――。
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