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――タン、タンッ……。
突如風の中響いた音に、僕は反射的に鳴る方へ視線を向けた。錆びた鉄扉の向こう側から軽快な足音が微かに聞こえる。
少々乱暴にドアノブを回す音がしたと思ったら、勢い良く開かれた。
僕は先生が来たのかもしれないと思い言い訳を探しながら身構えた。
「――二人で逢引の約束か?お熱いねぇ」
不気味な笑顔を貼り付けた顔に僕は構えを解いた。本当にタイミングが悪い。僕はタイミングの神様から見放されているのかもしれない。
「マツケンこそどうしてここに?」
「いやぁ、昼休みお前をランチに誘おうと思ったんだけどさ。偶然!小鳥遊と話してるお前の姿を見たもんだから泳がせてやったのよ」
一体何が偶然なのか。教室で話していたのだからマツケンではなくても誰かが見ているだろう。現にあの時はクラスメイト達の内緒話が弾んだ様だし。
そもそもお前の席は僕の前だ。
「はぁ……。ポーカーフェイスって知ってる?さっきから顔に出過ぎ。それに泳がせたって何だよ」
「だってスクープじゃねぇか!自由人の小鳥遊と東京育ちのお坊ちゃんが話してるとなりゃあ、な?シャッターチャンス待ちって訳よ」
半ば興奮気味に捲し立てるマツケンに僕は心底呆れた。
だが僕は気づいていた。彼の瞳の奥が全く笑っていない事に――。
「それで?本当は何しに来たの?」
僕もランチバッグを持って給水塔を飛び降り同じ目線に立った。小鳥遊は錆び付いたフェンスの向こう側を見つめたまま微動だにしない。
マツケンは妙に落ち着きが無く、頻りに遊ばせた毛先を触っていた。
「スクープを狙いに来たんだよ!……まぁ、入退院中の書類手続きの事で鳰センセーが呼んでたってだけさ」
「あぁ、ごめん。今から行くよ……」
「職員室にいるってよ」
――何となく、此処にいてはいけない気がした。
小鳥遊も明後日の方向を見つめたまま口を開きそうに無かったので、僕は素直に屋上から戻る事にした。
錆び付いた汚い鉄扉が閉じる隙間から、マツケンと小鳥遊が向かい合う姿を見た。
声は聞こえないが、マツケンは今までに見た事の無い厳しい顔で小鳥遊に話し掛けていた――。
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