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左の脇腹は"無くなっていた"。そこにある筈の"モノ"がごっそりと抉り取られていた。
夥しい鮮血が暗い空洞から溢れ、地面を濡らしていく。潰れたトマトの様にぐずぐずになった血肉と、布切れの様に引き千切れた神経が外気に触れ、想像を絶する痛みが身体を、脳を麻痺させる。
脇腹を押さえる左手が、紅く染まる肉塊の中にずぶずぶといとも易く沈み、呼吸をする度に臓器が蠢いて、かろうじて繋がっている神経を刺激した。
――ヒュッ………。
痛みで働かない頭が、空を切る音を捉えた。ほぼ同時に巨大な『影』が地面に落ちる。
少女は真冬に素手で氷水に触れる様に冷たくなっていく身体に力を入れ、懸命に地面を這う。身じろぎする度に血が溢れ、体内からはみ出した肉や臓器がずるずると引き摺られていく。
血の轍を作りながら、『影』から少しでも遠ざかるために痛みを堪えて進む。
校庭の隅に植えられた卒業記念の桜の大樹の下に辿り着いたときには、既に身体の感覚は薄くなっていた。
大量出血により霞む頭と視界で虚空を見上げた刹那――、
少女は絶望した――。
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