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――ヒュッ……、グチュ、グチッ……。
空を切る鋭い音と肉が崩れていく不快な音だけが響く校庭で、少女は『影』を目の当たりにした。
青紫の震える唇が、無意識に言葉にならない音を発し続ける。
――ビュッ……ビュウッ!
音が徐々に大きくなり、漆黒の大きな双眸が血濡れの少女を捉えた。
落ちる『影』が濃くなり、少女は限界まで目を見開き慄いた。
逃げようともがいた右手は砂を掻くだけで、鉛のように重い身体は動かず、『影』がもたらす"死"の色が濃くなる。
「やめ、ゴボッ!ゲホ、がはっ……!誰か……助け――」
細く白い喉から溢れ出る鮮血と嗚咽が少女を汚す。
――ブチッ!ボキッ……グチッ、グチャ!
耳を塞ぎたくなる様な音ともに少女は絶叫した。
『影』は無慈悲に少女の右腕を引き千切り、無理矢理皮膚が引っ張られる痛みと肉と骨の断面が晒された無残な右肩が熱を帯びた。
裂けるチーズの様に千切れた皮膚は瞬く間に真紅に染まった。ドクン、ドクンと脈打つ血管と筋肉から、鼓動に合わせて大量の血が溢れ出る。急速に失われていく血と意識に、走馬灯を見る暇すら無かった。
『影』の双眸に映ったのは絶望の色を浮かべた少女。最早逃げる術など無かった――。
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