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頭の中が、視界が、身体が、紅く染まっていく。
呼吸をする度に命が失われていく感覚に囚われながら、少女は終わりの言葉を口にした。
「……嫌だ、死にたくない……ゴボッ!……死にたく――」
――ブチッ!グチュ、ニチャ……グチッ……。
世にもおぞましい音と共に少女の世界は暗転した。滴り落ちる鮮血とマグロの赤身に似た肉片が顔を汚したが、それを知ることはなかった。
血塗れの粘膜と漆黒の眼窩を晒したまま、声にならない叫びを発し少女は死んだ。
大量の血を吸って深い黒に染まるセーラー服。胸元に飾られた深紅のスカーフは赤黒い斑模様になっていた。
あどけない少女を食った『影』は人形に成り果てた無機質な抜け殻を見下ろした。ゆっくり張り付いた死に顔から離れると、顔を高く上げて慎重に口を開いた。
地面に落ちたのは粘着性のある雫の影と、少し歪んだ球体の影。
血染めの『影』はそれを堪能するように嚥下した――。
やがて『影』は誰にも聞こえない雄叫びを上げ、溶ける様に濃霧の中に紛れて消えた。
誰もいない薄暮の町に、コゲラの鳴き声だけが歓喜するかの様に響き渡っていた――。
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