Chapter 2 「誘引《ゆういん》」

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***  ノイズが消えた。鳥の鳴き声も消えた。小鳥遊の姿も消えた――。  ふと気がつくと、僕は今と変わらぬ場所に立っていた。踏み出した足の位置も正確。相変わらずの濃霧だが、先程よりはまだ見える。  この大きな違和感を除いて――。  ――ビュッ……ヒュ……。  突如、空を切る音が鳴った。  咄嗟(とっさ)に薄闇の空を仰いでも、この深い霧では空の色さえまともに見えなかった。  完全に意識が途切れる前……途切れたのかさえ不明だが、コーヒーカップを限界まで回した時のあの気持ち悪さが僕を襲った。  思わず目を閉じて、次に目を開いたらこの有様だ。  記憶を辿る間に目が慣れ、僕は強く(まばた)きをしてみた。  改めて辻を見渡すと、虫の羽音(はおと)さえしない恐ろしい程の静寂が場を支配していた。……何かが違う。言うなれば……、  ――見慣れた町の、見慣れぬ景色。  目の前にやはり小鳥遊の姿は無く、僕一人だけがいる。そして切り取られた時間の様に音が消えた町の中。  そういえば『コゲラが呼ぶ声』と小鳥遊は言っていた。呼ぶとはどういう意味なのか。加えてコゲラの姿を探していた僕に「探しても見えない」とも。  駄目だ。ここで突っ立っていても始まらない。  ……とにかく小鳥遊を探す事が先決だ。僕は全神経を研ぎ澄まさせて、冷たい霧の中に飛び込んだ。幸いこの辺りは何度も散策した為、視界不良でも迷わず歩を進める事が出来た。  少し歩くだけで、身体の熱が奪われる。  小鳥遊がいた方の道をひたすら進んでいたが、やはり彼女の姿は見つける事が出来ずにいた。このまま先に進めば町唯一の墓地だが、直前の言動を見るにそこに行ったとは考えにくい。  本来ならば汗をかいていても不思議ではない気温なのだが、水蒸気の粒一つ一つが鋭い冷気を(まと)っていた。  ――それは最早、痛みであった。
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