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Prologue
見慣れた景色の見慣れぬ町を、一人の少女が髪を振り乱しながら走り抜ける。
濃霧に包まれた住宅街をすり抜けるように、暗い路地裏を選んで迷わず進む。
少女は立ち止まる訳にはいかなかった。振り返ってはいけなかった。振り返れば――、『アレ』がいる。
***
薄暮の異様な町の中を走り続け、ようやく丘の上の学校へ辿り着いた時、少女は髪が顔に張り付く程汗をかき、擦り剥けた膝から流れ出る血は既に乾いて赤黒い跡を残していた。
錆び付いて銀の塗料が剥がれ落ちた学校の門には、同じく酸性雨に晒されて溶けかかった金属が垂れる『公立朝霧中学校』のプレートが掲げられている。
滑りの悪い門を手汗で滑る手で必死にこじ開け、花壇を抜けた横にある校庭へ向かう。
静寂の校庭を横切り、裏山の方へ一気に駆け抜けようとした――、
――ビシャッ!ズチッ……グチュ!
不快な音が鼓膜を震わせた直後、少女は勢い余って身体を引き摺りながら冷たい地面に崩折れた。
倒れた姿勢のまま鋭い痛みに呻く。左脇腹に猛烈な熱を感じ、擦り傷で血濡れの左手をそっと脇腹に当てた。
グチュリ……と不快な音がそこから鳴っている。着ていたセーラー服の上質な布の感触ではなく、ハンバーグの種を捏ねる様な生肉の柔らかさが掌に伝わる。
赤く染まる脳内に警告音が鳴り響いている。
少女は恐ろしく重い頭でゆっくり視線を動かした――、
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