カラの話

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というかカラは確かに女性と並ぶと美しい青年であったが、これが皇帝、またはホルと並ぶと間違いなく美しい妻にしか見えなかったので、正直なところ周囲も皇帝はカラをどうするつもりなんだと薄々察しながら触れずにいた。このカラへの腫れ物を扱うような空気と、露骨な兄との扱いの差はカラからすれば自分は皇族の厄介者なのだと言われているようで、以前は砂漠のオアシス、微笑めばそれだけで渇きも癒されると讃えられていた容姿も今ではその瞳に見つめられれば砂漠の月より凍えてしまう冷めた美貌と言われるほどに陰鬱なものに変わってしまい、ごく限られた回り以外とはろくに言葉も交わさなくなっていた。 カラは兄が好きだった。カラの母が信頼できる同じ乳母や教育係をつけ、二人を分け隔てなく一緒に育ててくれた事を今でも感謝している。同じ歳のはずの兄はカラを置いていく勢いで成長していたが、(ホルからすれば)きっと遅くじれったかっただろうカラの歩みを急かすことなくいつも優しく待ってくれていた。カラは、ホルが父の跡を継ぐのだとかつては無邪気に信じていた。自分は神官として、臣下として兄を助けるのだと、そのためにと勉強も武術も頑張った。どれもこれも何をやっても兄に敵う事は無く、格別優秀に育つこともなく、兄の片腕たる人物にもなれず平均を逸脱する事はできず、兄を取り巻く平均以上のグループに入ることもできず、それでもいつかは兄の瞳に写る自分をくすぐったくも誇らしく思えた幼い頃のように、この劣等感を克服して兄に微笑む日がくるはずだと信じていた。 しかしカラは特別優秀でないだけで、特別暗愚だった訳でもない。成人が近づくにつれ、そして成人しても往生際悪く目をそらし逃げ回っていた現実にいよいよ追い込まれ、逃げ場がなくなっていくのを感じていた。     
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