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重なる年月とともに、甘くて可愛いハイトーンボイスと称された俺の歌声も、少しずつ変わってきた気がする。オクターブが狭くなって、高音域の続く楽譜がきつくなってきた。ギターみたいに、チューニングして直るものならいいけれど、生憎俺の歌声は楽器ほど優秀にはできていないようだ。
掠れた裏声がいやで、付き合いの長い先輩プロデューサーに相談してみたら、「経験値とともに色気のあるおじさんボイスに成長した証よ。それはそれでいい商材」とかえって別の仕事を押し付けられてしまった。
もちろん、自分で選んだこの道の仕事も楽しいけれど、やっぱり俺はあの子と一緒に歌う時間が一番楽しくて幸せだと思っていた。
「ねえ……俺の歌、こんな声になっても君は聴いてくれるの」
尋ねてみたけれど、彼は何も言わないまま笑顔で頷いた。
そして指をゆらゆら動かして今日もリクエストする。
『 う た っ て 』
「……君は本当に、俺の歌が好きなんだな」
笑顔でこくりと頷くその姿は、いつ見ても変わらなかった。
そういえば、昔からそういってくれていたっけ。
無償の愛情表現を素直に聞き入れられなかった意固地な俺は、年老いても今尚疑心暗鬼のかたまりで、たまにこうやって確認してしまう。俺のこと、本当に好きなのかな? って。
若い時から、それはもう何度も、なんども。
歌い終わってふと前を見れば、あの子はいつの間にかいなくなっている。
これも、いつものことだった。
二十四時間、消えることなく傍にいてくれたらいいのに。
ずっと傍にいて欲しいとお願いした時は、彼は泣きそうな顔をしながら、伏せた目でごめんと呟いた。それはもう、叶わない希望だったんだ。
俺も知っていた。
わかっていて、試すようなことをつい口にしてしまった。
だからこれ以上、我儘は言わない。
言わない……。
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