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どんなに辛いことがあっても、懸命に生きる君の貪欲な願いは、俺が全部叶えてあげたかった。
けれど、最期にどうしても、叶えることのできなかったその願い。
抱きしめて、謝りながら、ずっと体温を求め続けたけど、もう元に戻ることのなかった君の躰。あれは夢でも幻でもなく、現実だ。遠い記憶の彼方に追いやった、贖罪の箱の、中身。
俺の前でいつも笑ってくれるあの子は、俺の理想の幻であることくらい、本当は何十年も前から知っていて、でもずっと知らないふりをして愛してきた。
俺の歌を聴きながら死にたいと言った、彼の『まぼろし』を。
俺は年老いても命枯れ果てるまでずっと、この声をずっと空に向けて響かせながら、贖罪を乞うように歌い続ける。空でずっと待ち続けている、君に少しでも届くように。
けれどもう、声が出ないんだ。
だから君の優しい笑顔は、もう俺の前にいない。
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