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「助けは要らない。ただ・・・情けをくれるなら、一発の弾丸を撃ち込んでくれれば私は感謝できる。自殺はさせないで。いい加減だけど、一応プロテスタントだから」
満はその申し出を拒否しようとしたが、その清々しい表情に返す言葉も出なかった。それに、生きながら喰われて自殺も出来ないのは誰にとっても地獄だ。
「心配するな、任せろ」
そう短く答えるのが限界だった。
「確認は以上だな・・・行こう」
それぞれの武器を改め、満が先行して正面玄関に向かった。テロ対策にと改修され、拳銃弾にはある程度耐えられるというガラス板の向こうには病院の受付カウンター、そして待ち合い用のベンチが並んでいた。
寄せ集めの椅子がフロアの至る所に転がっており、マリンの話通り、尋常ではない混乱の様子を物語っていた。
「ゆっくり開けて」
満が玄関のガラスドアを開け、ショットガンを構えた。赤いドットが心細く院内の暗闇を示していた。
「クリア」
二人に安全を告げるなり満は音も無くフロアに滑り込むように進み、カウンターの裏や物陰を一通り確認し終えた。相変わらず、素早い動きであった。満は薬局の中を見回していたが、やはり薬は無いようだった。筆記用具か小物でも見つけたのか、何かをポケットに突っ込んでから二人に向き直った。
「ダクトの方を」
「わかった」
満に顎で示され、二人はダクトがあるフロアの突き当たりに進んだ。ダクトはミカエラが手を伸ばしても届かない位置にあり、二人は近くの筆記用の棚を持ち上げて運び、音を立てないように置いて足場とした。そこに登ったミカエラが苦しげな唸り声を上げた。
「どうしたの?」
「格子が・・・ドライバーが居るみたい・・・考えて無かった」
「俺の寄り道が思わぬ役に立ったな」
二人の背後から伸びて来た満の手にはプラスのドライバーが握られていた。
「合うか?」
「待って・・・大丈夫、行けるわ!」
一同は胸を撫で下ろした。が、直ぐに背筋を凍らせる。
何かを引きずる音に気付き、満とマリンが振り返った。カウンター前の待合所に、片足を引きずった感染者が現れた。感染者はこちらに気付き、向きを変えようとして転倒し、椅子を一つ、転がしながら倒れた。
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