第一章 荒廃

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 穏やかな水面。流れの殆ど無い水底は黄緑色の藻が覆ってしまっている。その水面を踏み荒らし、一つの影が駆け抜ける。 夕刻の残照が朽ちた商店の壁を舐めていく。日没が近い事は考えるまでも無い。かつてメインストリートだった池を駆けていたマリンは、方向を変えて商店の通りへ向かう。陥没によって出現した二メートル程の段差をよじ登り、商店街通りを走る。その途中、ショーウィンドウの前で足を止め、数年も人の出入りが無くなり、見るからに埃っぽい店内を見渡した。 ショーウィンドウも右上の端から大きくひび割れ、粉々になったガラス片が店内の床に散乱し、細かなガラス片が落日によって輝いていた。見る限り店内に目ぼしい物は見当たらない。どこの店も略奪や自分のような物色に遭っているので、ここもその一つかもしれない。 尤も、ファンシーショップに目ぼしい品物が転がっている可能性は極めて低いだろうが。ガラスに自分の姿が映る。そう膨らみもしていないカーキ色のバックパックを背負い、背負い紐のリングには前方に向けてL字のフラッシュライトを掛け、テープで下部を巻き付けている。
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