第一章 荒廃

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今日は久々に遠出する。武器がこれだけではいざという時に危機を切り抜けられないかもしれない。気は進まないが、壁に掛けた鉈を手に取る。独特な形状をした、オレンジと黒が強いグレーが基調の鉈。見た目よりも刃が厚くない為、片手で振ってもそれほど苦にならない。頼りないこの腕でも扱えそうだ。いざという時、ナイフよりはまともに格闘戦も対応できるだろう。ただし、移動するには少し邪魔になる。 「よしっ」  バックパックを背負う。背負い紐は適度に調節して重心がぶれない様固定する。逃げる時に荷物が上下左右に揺れていたら、疲労が先に達して逃げ切れるものも逃げ切れなくなる。  とかく、生き抜いていく為に必要な工夫は枚挙に暇がない。服装、靴の種類、靴紐の結び方一つで生存できる確率が格段に違ってくるのだから、世の中分かったものではない。その分、危機を共に切り抜けた道具には愛着が一層湧く。かつての世界でなら決して身につけたくない、こんな銃や軍用品の感が丸出しの可愛げが一切ないバックパックなど、全てがラッキーアイテムのように思えるのだから。  家を飛び出し、周囲に気配が無いのを確認してから戸締りし、マリンは朝の新鮮な空気が充満する世界に降り立った。  今日の目的は三キロ先にある市庁舎近くの銃砲店。この騒ぎが始まってから先ず最初に略奪に遭ったのは銃砲店か食料品店のどちらかだ。かつて銃器が当たり前に手に入る銃社会だったこの国は、今や拳銃一挺、9ミリ弾薬一発手に入れるのも一苦労する有様だ。この五年間でマリンはこの家を中心に一キロ圏内を主な生活区域として過ごしてきたが、その圏内にある小さな銃砲店は空箱さえろくに残らない有様だった。感染爆発後から三ヶ月でそれである。市庁舎から三ブロック手前にある銃砲店も同じ状況かも知れない。それでも、そろそろ銃弾に余裕が欲しい。  日が昇り、晴れやかな青空が照らされた。清々しい空気とは裏腹に、マリンの心はいつものように沈んでいた。 ―こんな生活が、死ぬまで続くのか―  
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