第一章 荒廃

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「本当ね、市庁舎の時もぞくッとしたけど・・・それ以上ね。もう夕飯にする?」  昼の分は無い。節約しなければならなくなり、昼か夕の分、どちらかしか食べられない。 「今食べたら夜中に空腹になるな。少し中を見て回る。さっきの影の事も気になる」 「私はどうすれば?」  ベッドの上に寝転がりながらマリンが見上げた。何ともそそるが、今は気を緩めている場合ではない。 「ここで待っているといい。鍵を掛けて、ちゃんと俺かどうかを確認してから開けてくれ」 「分かったわ」  満は素っ気ないフリをしながら部屋を後にした。雨音が音感を邪魔し、頼りは目だけという状況だが、ホテルの内部には感染者の気配は感じられない。手近な部屋に近寄り、ドアに耳を当てて見る。やはり物音一つ無く、ドアにも鍵が掛かっていた。鍵の掛かっている部屋の中に略奪者や生存者が潜んでいる可能性もある。それを時間の許す限り確認する事にした。どうせ時間は有り余っていたのだ。  ホテルは十五階まである。その内、特に気懸かりのある部屋を調べる事にした。とても全ての客室をチェックする程の時間は無いし、マリン達が以前使った時に調べた部屋もあるだろう。  とはいえ、並んだドアの殆どは鍵が掛かり、ドアノブにも埃が積っている。人が出入りした形跡も無く、しかも鍵が掛かっていれば感染者が潜んでいる心配は無い。そして生者が居ない場所には感染者も居ない。  無駄な警戒だろう、とどこかで思いながらも八階の一室に異変を感じる。その部屋のドアノブには埃が無い。 「・・・」  満は拳銃を抜き、そっとドアノブに手を掛けた。鍵は掛かっていない。思い切り、そのドアを開け放って拳銃を突きだす。  しかし、そこには誰も居なかった。確かに誰かが居たような形跡も無い事は無いのだが、気配は無い。 「建物の中にいるのか・・・」  相手が自分達の存在を察知し、見張られているとしたら厄介だ。背後に注意しながら部屋の中を見て回る。 「・・・甘い香り?」  部屋に香水など置いていないし、そんなものがある筈も無い。とすればそれは人の匂いとしか思えない。少なくとも男では無かろうが、悪漢で無いなら誰でも構わない。  これ以上この部屋に居ても何も得るものは無いと判断し、その部屋を去る事にした。最上階の階段に鳴子を仕掛け、それからマリンの待つ部屋に戻った。 「お帰りなさい」
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