其ノ十六

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 閉じられた戸口の前で小さくなっていた吉右衛門が、やや得意気に答える。 「錠前、だって?」  途端、小屋の中が色めき立った。その意味を吉右衛門は、彼らが首を長くして待っていた代物が漸く届いたことに対する安堵、もしくは意外な人物が届けに来たことに対する驚きだと解釈した。 「へぇ、源という職人に造らせたと聞いております」 「あ、ああ……確かに源さんには造ってもらっているが……」  手札を置いて、七兵衛は立ち上がる。戸惑い顔の半造達と視線を交わし、それから障子の奥へと姿を消した。  残された者達は所在なく、その場を動けずにいた。 「嵯峨美屋さん、(へぇ)んな」  固い表情で戻ってきた七兵衛は、開けっ放しの障子の奥を示した。 「有り難い。それじゃ、失礼します」  子分達に軽く会釈してから、畳に上がる。風呂敷包をしっかり抱え、吉右衛門はいそいそと通されるまま辰次郎親分の部屋に入った。 「――よォ、嵯峨美屋の旦那、久しぶりだな」  火鉢にあたりながら、辰次郎は煙管をふかしていた。プカリ、煙を吐き出して、突然の来訪者を藪睨みする。 「へ、へぃ……ご無沙汰で」  借金を抱えている都合、怯える吉右衛門の挨拶はしどろもどろになった。 「ま、そこに座んなよ」 「失礼します」  火鉢を挟んだ正面を示され、腰を下ろす。  辰次郎は煙管をふかし、ゆっくりと煙を吐いた。 「……で、錠前を持って来てくれたんだってなぁ?」 「へぇ、ちょっと不思議な(えにし)がありまして……アタシに儲けを譲ってくれた男がいましてね」  大様(おおよう)に構える辰次郎に反し、緊張からか吉右衛門は普段より早口になった。 「儲け……」 「何でも、こちらの錠前を十両で買っていただけるとか」  吉右衛門は風呂敷包を解いて、木箱を辰次郎の前に置いた。  辰次郎は豪快に鷲掴みして、蓋を開けた。錠前に施された龍の細工をしげしげと眺め、唇をニタリと歪める。 「は……! ちげぇねえ。確かにコイツは十両の(あたい)だぜ」  吉右衛門は安堵の色を浮かべ、つられて口元を綻ばせる。
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