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「時に――カラクリの仕掛けは聞いているかい?」
「勿論です。ちょいと、失礼します」
辰次郎から錠前を返してもらうと、吉右衛門は付け焼き刃のぎこちない手つきだが、解錠してみせた。
「ほぉ、面白れぇ……貸してくれ」
煙管を置くと、辰次郎は自分でも試みた。難なく解錠できることを確認すると、錠前を木箱に戻し、満足気に撫でた。彼は立ち上がり、箪笥の上から二番目の引き出しに木箱を納める。それから、大きな身体を揺らして煙草盆と火鉢も箪笥の脇に寄せた。
「嵯峨美屋さん。わざわざ届けてくれて、すまねぇなあ」
辰次郎は、再び嵯峨美屋の前に胡座をかいて、懐から分厚い胴巻きを取り出した。
――ゴクリ。
吉右衛門の喉仏が小さく上下したようだ。
「こんな夜更けに来てくれたんだ、手間賃に色を付けさせてもらうぜ」
「そ、それは有り難い」
珍しく気前の良い振る舞いに、吉右衛門は恐縮する。
「その代わり――と言っちゃなんだがな、嵯峨美屋さん。アンタがあの錠前を手に入れた経緯を、ちょいと話しちゃくれねぇか?」
胴巻きから小判を一枚ずつ取り出して、畳の上に並べていく。
十枚揃えたところで、まだズシリと重みのある胴巻きを左手に乗せて、吉右衛門の目の奥を覗き込む。
「へ……へぇ」
黄金色の誘惑と、辰次郎の圧力に気持ちが揺れる。父親の花街通いは身内の恥を晒すようで躊躇われたが、辰次郎がゆっくりと胴巻きから黄金色の輝きを更に一枚覗かせると、心は決まった。
吉右衛門は、今夜突然嵯峨美屋を訪れて、五年前の恩返しだと言って錠前を託して消えた「権蔵」という男のことを話した。
腕組みしながらじっと耳を傾けていた辰次郎は、吉右衛門の話が終わると一つ頷いた。
「権蔵ってぇのは、どんな面だい?」
訝しさを満面に浮かべるも、吉右衛門は素直に答える。伝えられた人相に、グッと辰次郎の眉間が険しくなった。
「……源だ……あの野郎」
「え……?」
「いや。ご苦労だったな、嵯峨美屋さん」
一瞬、頬をひきつらせた辰次郎だったが、すぐに強面を緩めた。胴巻きを掴み直して、覗かせていた一両を畳の十枚の横に足した。
「さ、遠慮しねぇで持ってってくれ」
すっかり小判に釘付けになった吉右衛門に向けて、辰次郎は猫なで声で促した。
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