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「ママ、桜と梅のお花の見分け方って知ってる?」
そう聞かれて私は顔を上げた。
公園に植わっている桜は既に葉桜になっていた。
数日前にはこの木の下で宴会をする者もいたのだろうか。しかし若葉が顔を出し始めた今、もう人々の関心の中に桜は無い。
この夕暮れの公園に桜を見にくる人など、私と娘以外には見当たらなかった。
「桜と梅? ……んー、分からないな。ママに教えてよ」
「あのねえ、ええとねえ、花びらを見るといいんだよ」
菜々はそう言うと、落ちていた桜の花びらを一枚拾い、私のいるベンチまで走ってきた。
昨日の雨のせいか、木の下にあった桃色の絨毯はすっかり色褪せていた。菜々が持ってきた花びらも土混じりで、茶色く変色している。
だけれど菜々はそんなことは気にも留めない様子だ。
「このね、花びらの先のところ。ここがふたつに割れてるでしょ。これが桜なんだって。もしここが割れてなくて丸まるだったら梅のお花なの」
「そうなんだ。すごいねえ。菜々はお花に詳しいね」
「ふふー、えらいでしょ」
菜々は照れ笑いを浮かべると、花びらとは逆の手に持っていた本を強く握りしめた。
タイトルは〝はるのはな〟。
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