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子供向けの小さな本だ。中身は簡単な図鑑のようなもので、春に咲く花の絵と解説が載っている。
きっとそこに桜と梅のことが書いてあったのだろう。この本は菜々のお気に入りで、半年ほど前に買ってからというものの、花を調べるためにどこに行くでも持ち歩いていた。
……きっと今年は満開の桜を見るのを楽しみにしていただろうに。
なのに、菜々は一言も不満を言わない。
「ねえママ。菜々、お花屋さんになれるかな」
跳ねるようにして菜々が私の横に座った。
するりと繋いでくるその掌は、私よりひと回り以上小さく心もとない。
「お花屋さんね。きっとなれるよ。だって菜々はこんなにお花が好きなんだから」
「うん、お花好きだよ。……でもね、きっともっとお勉強しないとだめなんだ」
そう呟くと、菜々は本をパラパラとめくった。
もう購入してから半年が経つその本は、ところどころが折れたり破けたりしている。
気付くと、先程まで笑顔だった菜々の表情は真面目なものに変わっていた。
「亜里沙ちゃんのおうちにね、お花の本があったの。なつと、あきと、ふゆのお花の本もあったの。だから菜々は亜里沙ちゃんよりもっと勉強しなきゃ、きっとお花屋さんにはなれないの」
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