6人が本棚に入れています
本棚に追加
私はその言葉を聞いて、思わず息を止めた。
ふと菜々が私の顔を見上げる。その瞳に悲しみの色はない。〝お花屋さんになるためにもっとがんばる〟という決意だけがそこにある。
菜々の言葉にそれ以上の意味はない。
だからこそ、余計につらくなる。
「そっか……」
なんの言い訳にもならない呟きが漏れ、地に落ちた。瞬間、自分の不甲斐なさに押しつぶされそうになった。
たった四冊の本を買ってやることもできない。
そんな自分が、情けなくてたまらない。
〝お誕生日、何が欲しい?〟――そう言うと、菜々は小さな本屋の隅っこへと走り、一冊の本を選んだ。
菜々の一番好きな季節の本。四巻セットの一冊だけ。タイトルの下に書かれた〝おはなずかん1〟の文字が、無言のまま私を責めているように感じた。
菜々は何も言わないから。
私はいつも、静かに自分を責めることしかできない。
「ごめんね」
私はそう呟くと、菜々の肩を引き寄せた。
その顔は見えなかったが、菜々は私の腕の中でもぞもぞと動いた。
「何? ママ、どうしたの? 何か悲しいことあった?」
「……ないよ。なんでもないよ。ごめんね」
最初のコメントを投稿しよう!