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そうして、失踪三日目にして僕は彼女の部屋に居つく事になる。
居つくと言ったけれど、正確には少し違う。
動けなくなってしまったのだ。それも物理的に。
僕の失踪から五日目の朝。それは、右の足首から始まった。
彼女がそっけなく貸してくれた毛布に包まり、床で寝ていた僕は、自分の身体の異変に気づく。
白くて柔らかい毛布を静かに捲ると、そこにはもう僕の右足首から下は消えていた。
痛みは無かった。
腐った木の枝が幹から抜け落ちる様な、それはとても自然な異変だった。
直後は、右足首の断面から神経や筋肉や血管みたいなものがぶら下がっていたけれど、それは既に枯渇した残骸でしかなく、やがて赤黒い粉となって散らばり、やはり床下に吸い込まれてしまうのだ。
同じ日の夕方には左脚が膝から抜け落ちて、僕は部屋の中を這って移動するしかなくなった。
それでも、大して困る事は無かった。
この部屋に来てからの僕は、不思議と喉の渇きも空腹も感じず、従ってトイレに行く必要も殆ど無くなっていた。
それでも、たまに彼女が出してくれる、うすみどり色のお茶だけは飲んだ。それはガラスの器に入っていて、冷たく、少しだけ甘い様な匂いがした。
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