遊園地に関する猫のバックアップ

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 猫に餌をやるのと、僕にお茶を出す以外にも、彼女には重要な役割があった。  それが、あの「バックアップ取れるけど」だ。  方法はごく自然で、彼女が自分から申告しなければ誰にも分からないうちに作業は完了してしまう。  なんせ、猫の眉間を人差し指で何度か擦るだけなのだ。  けれど、それでバックアップはきちんと取れているらしい。  彼女の話はこうだった。  この部屋には過去にも僕以外の失踪人が度々訪れていた。そして、おそらく未来にも。  彼らは自分達から吸い寄せられるように部屋に入ってくる事もあるし、僕みたいに彼女に拾われる場合もある。ケースは、まちまちだ。  失踪人達は、時間が経つにつれて身体を無くしていく。手や足や爪や耳、眼玉や髪の毛、胃袋や三半規管。無秩序な順番で、それらの一つ一つは朽ちるように身体から外れ、落ちると同時に床下に吸い込まれる。  そう、これも僕みたいに。  「この床はそれ用に出来ていて、とても便利なのよ」  この空気清浄機は自動運転なのよ、みたいな調子で彼女は言う。  「でも、君の部屋はマンションの確か五階じゃなかった?吸い込まれたものが階下の人の部屋の天井から降ってきて、文句を言われたりはしないの?」     
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