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安全様のシートベルトを閉めると、ブッという合図音が鳴って、一瞬部屋は真っ暗になる。
次に明かりが点くと、ベンチは上下に揺れ始め、最終的に自分が部屋の中で360度回転しているように見えた。
本当には、僕は360度なんて回ってはいない。
ベンチの上下の揺れに合わせて部屋の壁が動いているだけだ。
その頃の僕だって、そんな仕組みは分かっていたけれど、びっくりハウスは素直に楽しかった。
隣でベンチに座る母が安心しているような気がしたからだ。
これが、僕に関する記憶の最期。
「容量的に大丈夫だったみたいね。バックアップは全て取った後、運んでおくから安心して」
どこに運ぶのかは分からなかったけれど、僕は心の中で彼女にお礼を言った。
だって、もう「ありがとう」と伝える口なんかとっくに無くなってしまっていたから。
遠くで彼女が猫の眉間を擦る気配がする。
僕の最後のパーツである左の耳が落ちた瞬間、彼女の作業が完了し、猫がにゃあと鳴いて部屋を飛び出して行った。
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