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川嶋暁臣は、約束の時間のかっきり15分前に、秋葉原の駅前に立っていた。 ここまで車で送ってくれた護衛は、約束の相手が現れるまで車の中で待ってはどうか、と提案してくれたけれども、川嶋はちゃんと待ち合わせ場所に自分の足で立ってそのひとを待っていたかったのだ。 彼は、そのあまり感情が表に現れない顔からは全く窺えなかったけれども、とてもウキウキしていた。 今日の待ち合わせを、すごく楽しみにしていたのである。 一方、そんな川嶋を、本日の護衛役を命じられた高原は、車の中からハラハラと見守っていた。 そのひとは、あまりにも無防備すぎる。 自分の容姿を少しもわかっていないのだ。 ただそこに立っている、それだけで通りかかるほとんどの人間がチラチラと視線を送っている。 ここが秋葉原という場所だったから、まだよかった。 渋谷や新宿といった場所だったなら、あっという間に欲にまみれた人間に囲まれていただろう。 高原瑛太は、関東一円の裏社会を牛耳っている宇賀神会の若頭、宇賀神龍之介の側近中の側近である。 本来なら、常に宇賀神の後ろに付き従い、彼の護衛兼秘書のような役割をしているため、こうして川嶋の護衛に付くのはすごく久しぶりだ。 宇賀神の最愛のひとである川嶋が、宇賀神を置いて一人で外出したい、と言った今日、たまたま他に適当な人材がいなかったのである。 普段川嶋の護衛についている者が軒並み仕事や休暇で空いておらず、かといって宇賀神は、愛する川嶋の護衛を信頼が浅い者や武術に優れていない者に任せるのは嫌がったので、必然的に「お前が行け」と高原に白羽の矢が立ったわけなのだ。
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