小説家

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 物書きという病魔に冒されてからというもの、空気のようにネタを求め続けている。斬新かつ洗練されたストーリーを非の打ちどころのない文章で表現したい、そんな欲求に身も心も支配されている。  持て余すほどの創作意欲が、私の心を振り回し、果ては身体をも引きずり倒し、私から何かを奪い続けている。それでも傑作を書きたい。私は傑作を書きたい。  いつからという記憶はない。ただただネタを欲し、ネタを探して生きてきた。私は物書きであり、つまりそれは人生におけるすべての出来事に対し、ネタになるか否かという目線でしか見ることができない病気であるということだ。  さて、この病気をネタするなら、そうだな。人生を賭けるほどの情熱が誰かを傷付ける、そんなヒューマンドラマになるだろうか。文章は、こうだ。 **** 「楽しいとか、得をするとか、どうでもいいことだよ。息をする意味を真剣に考えても仕方ないでしょ? やるって決めたら、そういうのはもう野暮なんだよ。そこが分からない君の手助けなんて有難迷惑にしかならない。放っておいてくれないか」 **** ……どこにでもありそうなストーリーと言い回しだ。どうして私は、陳腐なストーリーをありふれた言い回しで表現することしかできないのだろうか。それにリアリティが足りない気がする。共感を呼ぶ文章にはリアリティが必要だ。  ああ、もっと『ネタ』が欲しい。
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