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私は物書きとして生きたが、残念ながら大成することはなかった。後悔はいくらでもあったが、1つとして先に立つものはなかった。人生のどんなタイミングにおいても、やるなら今しかないのだ。そんなことすら私は分かっていなかった。
このベッドの上で書き物すらできない私ができることは……頭の中で物を書くことくらいだろうか。そういえば私はずっとそうやって生きてきた。どうせなら最後までそうやって死んでいこう。
人生をネタにした集大成、それが駄作でも構わない。どうせ誰にも読まれることはないのだから。もしも傑作が書けてしまったら……そうだな、冥土の土産にはなるか。
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「…………ごめんな」
懐かしい声だ。
「あの時は、どうしても後悔したくなかった。でも今はお前たちを捨てたことを後悔している。今でも母さんが死んだのは自分のせいなんじゃないかって思うし、結局やりたかったこともうまくいかなかった。お前たちには本当に悪いことをしたと思う。今更どうしようもないけど、本当にすまないことをした」
後悔しないように生きても、後悔することはある。どんな選択をしても結局すべての後悔は先に立たないのだから。それでも父さんは後悔しないように最大限努力した。母さんは怒るかもしれないけど、息子だからか僕には父さんの気持ちがよく分かる。それに僕は、母さんのおかげでそれほど苦労を感じたことはなかった。
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あの世で母親にでも見せようかと思ったが、やはり私には傑作を書く力はない。ストーリーとしては、自分勝手な父親を許してあげてと言うのも何か違う気がするし、会話も随分と説明くさいし何より面白さがない。まあ、リアリティだけはあるかな。
まあ、いいか。せめて感謝の気持ちくらいは伝えておこう。今の私にできることは、それくらいしかないのだから。
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