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捕虜
翌日、新たに派遣された偵察隊が夕方に帰ってきて、隊長を大喜びさせました。
彼等は、アメリカ軍部隊の規模・装備・動きをきちんと調べただけでなく、一人のアメリカ兵を捕虜にして連れ帰ったのです。その男を見た途端、息子は目の前が真っ暗になりました。捕虜は二日前に自分を見逃してくれたアメリカ兵だったのです。
隊長は、彼をきつく縛り上げて隊員達の前に座らせました。日本兵に囲まれ、彼の表情は恐怖に引きつっています。無理もありません。二十歳の彼にとって、表情に乏しく未知なる言葉を操る日本兵はただただ不気味な存在でしたから。
隊長は、この捕虜をどう扱うべきかとしばらく考えていました。そして、とんでもないことを思いついたのです。それは、中国戦線からの帰還兵が自慢げに話していた度胸試しでした。彼等は、捕虜にした中国人の首を日本刀で切り落とすことを何度も新人兵士にやらせていたのです。
隊長は、このアメリカ兵で、その度胸試しをやってやろうと考えたのです。そして、誰にやらせようかと考えた時、真っ先に頭に浮かんだのが息子の顔でした。
日頃から軟弱な言動の上、先日偵察に行かせたのに何の成果も上げないばかりか迷子にまでなった息子が一番の適任者だと思ったのです。
「信田、貴様の根性を叩き直すために特別任務を命じる。私の日本刀を貸すから、このアメリカ兵の首を切り落としてみせよ」そう言うと、隊長はアメリカ兵の髪を引っ張り首を上に向けたのです。そして隊長は、日本刀を息子に無理矢理握らせると「さあ、貴様の根性と覚悟を見せてみろ」と言いました。
アメリカ兵は、横に刀を持った日本兵が立ったのを見て、自分の置かれた状況を理解しました。顔を上げると息子の顔に気付いて叫びました。「リメンバー ミー。 ヘルプヘルプ」
昨日自分が助けてやったじゃないかと、強く訴えました。
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