急「天文博士」

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応接室のソファに腰かけ、話していたのは二人の人物。一人は、幸隆(ゆきたか)ら陰陽師を管理する一大機関『陰陽寮(おんみょうりょう)』を統括する“陰陽頭(おんみょうのかみ)安倍(あべ)晴造(せいぞう)。そしてもう一人は、幸隆(ゆきたか)はあまり直接的な面識が無い女性だった。 「安倍(あべ)千代(ちよ)です。こうしてお話しさせていただくんは初めてですよね? 土御門(つちみかど)幸隆(ゆきたか)先生」 「ああ、貴女が。料理教室では家内がお世話になっております。いつもほんま美味しいお料理を指南くださって。おかげさまで我が家の食事が一層豊かになりました。確か、倉橋家で家政婦をしているとか。本日はどういったご用件でこちらへ?」 「桃舞(とうま)さんの事が心配で眠れなくて。お爺様にお話を聞きに訪ねました」 「おや、千代(ちよ)さんは陰陽頭(おんみょうのかみ)のお孫さんではりましたか? そのような話は初めて耳にしましたが」 「育ての親なだけじゃよ。知り合いから引き取った子でな」  なるほど、と幸隆(ゆきたか)は納得したように首を縦に振る。安倍(あべ)家の人間は、ほとんどの者が『陰陽寮(おんみょうりょう)』の職務についている。というのは、代々霊的素養が高く、陰陽師として優れた才能を持って生まれてくるためなのだが、そういう事情なら彼女が家政婦として倉橋家に入っている状況にも納得ができる。安倍(あべ)家とは言っても、元が外部の人間ならば必ずしも陰陽術の才能が高いとは限らない。 「それで、肝心の桃舞(とうま)君の話ですが私も気になります。今戦場はどのような状況なのでしょうか」 「あ、美味しいお茶を持ってきたので今入れますー」  桃舞(とうま)が心配でやってきた割にはどこか呑気な声で給湯室に入っていく千代(ちよ)。どうやら、幸隆(ゆきたか)が尋ねる時には一通りの話が終わっていたらしい。幸隆(ゆきたか)が皮張りのソファに腰かけ、晴造(せいぞう)と向かい合う。幸隆(ゆきたか)の感情を察して、晴造(せいぞう)は改めて彼に向かって一度行ったであろう状況説明を再び始める。  
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