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法廷
検事の山上は、証言台に鳥籠を置く。
「喋らない鳥が、証人だとよ。笑わせるぜ、腹いたい」
被告人の20代男性が、鼻から抜けるような声で嘲った。
「静粛に。証言を始めてください」
裁判官の声が法廷内に静けさをもたらす。
山上は一歩下り、証言の開始を待った。
ときおり聞こえる唾をのむ音、椅子のきしみ、被告人が不必要にたてる呼吸音。
時は空しく過ぎるかに思われた。
法廷中に響き渡る声で笑い飛ばしてやる、と男性が息を吸い、胸を反らす。
その時。
鳥籠に、空中の一点から光がさした。
「ぴ……、ぴよ」
セキセイインコの半ば開いたくちばしから声がもれる。
鳥の鳴く音程の、なんとなく合成音にも似た声だが、喋り方は被害者少女そのものだった。
「ピヨちゃん、おはなししちゃダメ。だまってないと、ピヨちゃんも、おケガしちゃうから」
被告人は「ひっ」と息を吸い、目をむく。
山上はセキセイインコと、その横に立つ淡い光に向かい、頭を下げた。
「ごめんなさい。もうしません。イタイ。ごめんなさい、ゆるして。ヤメテ、イタイ」
証言者は淡々と、飼い主だった少女が両親に向かい、必死に許しを請う言葉を再生する。
感情を込めず、一言一句の間違いもなく。
山上は「今、真実が暴かれる。目の前で行われているのは正義だ」と、叫びたい衝動に駆られた。
だが助けられるべき被害者はもう、いない。
衝動は、後悔の念へと変わる。
胸をかきむしりたくなった。
証言者は嘘をつくことが出来ず、話を短くまとめる力もない。
延々と続く証言の間、山上はくちびるを噛みしめながら、ずっと頭を下げ続けた。
(了)
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