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「うそっ。うそよおぉぉっっ」
『…………ママ』
売店に行ってほしいとさっき頼んだママが帰ってきたようだ。
『残酷だね……。ママ、ずっとキミの看病してたじゃないか。死に目くらい見せてあげれば良かったのに』
『……うん。でもね、ママの涙を見続けながら死ぬの、なんか嫌だったんだ…………』
……ごめんね、ママ。あたし、自分の脈が小さくなっていくの気づいてたんだ。熱が全然下がらなかったし、もう無理だなって思ったんだ。
『あたしが何も食べられないのわかってたのに、あたしのお願い聞いてくれて……ありがとう……』
看護師さんに抱かれるようにして大声で泣くママに向かって、あたしは頭を下げた。ママの手から落ちたビニール袋。そこから転がり出たプリン。胸がすごく苦しかった。だけど、目からは何も流れてこない。
『涙が出ないんだね、こんなに哀しいのに』
『切ないけどね、これが死ぬってことなんだよ』
『ふ~ん……』
天使と名乗る青年の手があたしの背中を押した。あたしは泣き続けるママが気になったけれど、このままここにいても仕方がないと思ったから、促されるまま病室を出ることにした。
『どうする?』
病院の廊下を歩きながら天使はあたしに言う。
『どうするもこうするも、あんたはあたしを天国に連れて行くんでしょ? だったら、神様に会わせてくれる? 一発ぶん殴ってやるんだから』
神様なんかいないと思った。健康な身体にしてほしいと毎日願っていたのに、結局叶えてくれなかったんだから。だけど、彼は天国から来た天使だって言う。だったら、やっぱり神様はいるってことで……。
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