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あたしの容態が急変した。
突然のことに、点滴を換えに来ていた看護師さんは持っていた点滴バッグを落としたり、ナースコールに呼ばれて駆けつけた看護師長さんは悲鳴をあげたりと、周囲は騒然としていたけれど、あたしは冷静に思っていた。
心臓が止まったのは当然。だって、中身の魂は抜けちゃってるんだもん。
やっぱ、短い人生だったんだ……。
小さく溜息をつき、医師に心臓マッサージをされている自分の頭を撫でる。
お疲れ、自分。
ご苦労様、自分。
よくやったよ、自分。
10年生きるかどうかわからないって生まれた時から言われてたのにさ。なのに、プラス6…16年も生きたんだ。立派だよ。
『……ちょっと。そこ、邪魔』
一人の医師があたしに声をかける。彼は、ここ最近見かけるようになっていた若い人。研修医なのかと思っていたけれど、今のあたしに声をかけるということは違ったようだ。
『……あなた、死神だったの?』
ベッドから離れ、あたしは青年に近づく。青年は頭を掻く。
『そんな怖い姿に見える?』
『……死んだばかりの魂に声かけるあたり、立派な死神じゃない』
『若いんだからさ、もっと明るく考えられないかな? 天国に連れて行く天使とか』
『はあ?! 天使ぃ?!』
叫んだあたしの前、彼はくるりと白衣を翻すように一回転し、Yシャツにスカイブルーのネクタイをした、オフィスで働くビジネスマンのような姿になった。
『そ。キミを天国までご案内するお仕事をしています』
片手を胸の前に上げ、恭しくあたしに向かって一礼する彼。呆然と目を瞠ったが、一つの悲鳴があたしを現実に戻した。
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