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サーファー
地元の大学を卒業後、証券会社に就職し、私は波乗りをする男に恋をした。
男の朝は河口の波のチェックに始まり、サーフボードとともに波間に消える。
潮の匂いを纏ったままバイト先のカフェに向かい、閉店と同時に海に帰る。
走行距離10万越えのカローラから流れるのは、ラジオの天気予報かサザンオールスターズ。
誕生日も、クリスマスも、記念日も、私の扁桃腺も関係なく、波があろうがなかろうが、海に向かう。
男の心を占めているのは、風と波で、助手席で待つ女は、脱ぎ捨てたカフェの制服と同じ程度の存在価値。
捨てはしないが、大切にもしない。
それでいいと思っていた。
待ってさえいれば、帰ってくる。
それでいい。
とてつもなく側にいてくれない男だった。
思慮のない若かった私。
望んでいたのか、そうじゃなかったのか、今となっては思い出せないが、子供ができた。
仕事や両親やこれからの生活など、数えればきりがない程不安はあったが、気がつけば下腹に手を当て、暑くはないか、寒くはないかと、そこに問いかけている。
当の男は、相も変わらず海に行く。
今朝こそ伝えようと、海に行っても、運転席に帰ってこない。
いつもの豆屋で買ってきたハワイコナをミルでひき、熱々をポットに入れる。
その日も、その次の日もポットをカローラに置いたまま、一人で帰る。
身籠った事を男に言い出せないまま数日が過ぎた頃、激しい腹痛とともに、お腹の子供はこの世から存在を消した。
後悔、懺悔、自分を苛んでみても、もう、取り返しはつかない。
そして、それに、男は気づきもしない。
だから私は
「もう海に行くのはやめろ。僕のところにいてくれ。」
と言ってくれた、いつも側にいてくれる別の男と結婚した。
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