カップ麺ミニッツ

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 イケメン宇宙人は、俺の後頭部に銃口を押し付けた。 「貴様、時間稼ぎをしているのではあるまいな」  俺はドキドキと跳ね上がる心音を抑えながら言った。 「いいのか? ここで俺を撃てば、お湯を入れた様子は見られないぞ」  イケメン宇宙人は、くっと呻いた。 「……続けろ」  静かなアパート内に、アナログ時計の針の音が響いた。  俺は後頭部に、銃口の硬い感触を感じながら、表面だけは平静を装い続けた。  やがて、薬鑵(やかん)の注ぎ口から水蒸気が勢いよく吹き出した。 「沸いたな」  イケメン宇宙人は、薬鑵(やかん)の取っ手を掴もうとした。 「やめろ!」  俺はイケメン宇宙人の腕を掴んだ。 「貴様、やはり何か企んでいたな!」 「違う! 十秒待つんだ!」  俺は叫んだ。 「沸騰してから十秒待った湯が、一番カップ麺の深い味を引き出すんだ!」  イケメン宇宙人は、じっと俺の顔を睨んだ。  美形が睨むと怖いというのは本当だと感じた。  しかし怯まず俺は言った。 「……本当だ。信じてくれ。何も企んでなんかいない」  俺はイケメン宇宙人に背中を向け、アナログ時計の秒針を見た。  三、二、一……。  俺はガスの火を止めた。 「これから湯を入れる」 「よかろう。さっさと入れたまえ」  俺は、畳の上に正座すると、カップ麺を手に持った。  テーブルは無い。  いつも畳の上にカップ麺を置き、スマホでネットを見ながら腹を満たす。  (つゆ)が零れたら厄介な万年床は、二つ折りにして部屋の端に追いやっている。  ゲームをやるとき、ソファ代わりに座れるので合理的だ。  少しずつ、円を描くように湯を注ぐ。 「一気に注いでは駄目なのかね」  イケメン宇宙人はイライラと言った。 「具材をいたわるように静かに、静かに注ぐんだ。具材の細胞を壊さないように」  科学調味料の、癖になる香ばしさが六畳の部屋に充満した。
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