カップ麺ミニッツ

　俺は、ゆっくりとカップ麺の蓋を開けた。
　勿体ぶってゆっくりと。
　乾燥状態でも美しい彩りの麺と具が現れる。
「ほう……これが地球人の命の糧か」
　アニメに出てきそうな軍服姿のイケメンさんが、上から目線で言った。
　先ほどスーパーでの買い物帰りに拉致された。
　小型宇宙船に乗せられ、自宅アパートに着いた。
　どこぞの宇宙人と名乗った。
　精悍で整った顔立ちに長い髪、SFの未来都市風の軍服で、六畳間の畳の上に座る様子は中々シュールだ。
「さあ、お湯を入れてみたまえ」
　イケメン宇宙人は腕を組み偉そうに言った。
「調査だけって言ってませんでしたか？　中身見るだけでしょ？」
　俺は上目遣いで言った。
「地球人にそんなことを言う権利があると思っているのかね」
　イケメン宇宙人さんは、銃のようなものを取り出した。
　銃口に当たると思われる部分を、こちらに向ける。
　俺はしぶしぶ立ち上がった。
　流しに行き、薬鑵(やかん)にペットボトルの水を注ぐ。
　水道水では駄目だ。
　東北某火山を流れる軟水、薬鑵(やかん)は銅。
　これが俺のこだわりだ。
　火を点ける。
　俺は腰に手を当て、ガス台の前で仁王立ちになった。
「早くしないか！」
　イケメン宇宙人は怒鳴った。
「湯が沸くまで時間がかかる」
　俺は堂々と言った。
　イケメン宇宙人は、舌打ちした。
「宇宙船に持って行け。こちらの機材を使えば一瞬だ」
　薬鑵(やかん)をガス台から外そうとする。
「待て！」
　俺は叫んで制止した。
「時間をかけて沸かしたお湯の、まろやかさが分からないのか！」
　俺は言った。
「地球人の食を調査しに来たんじゃないのか！　地球人のこだわりを無視するのか！」
「わ……分かった」
　イケメン宇宙人は言った。
「まだか」
　三秒ごとに言う。
　俺は、瞑想するように目を瞑り、黙って待ち続けた。
「まだか！」