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「このかんじは…インフルエンザではなさそうだな」
「そっか…ありがとう、慎太」
その後、俺は彼女が住むアパートに到着していた。
戸を開けてもらった際は出迎えてもらったものの、俺の指示ですぐに布団に入り込ませた。その後、俺は冷えた右手を彼女の額に当てた後、インフルエンザによる高熱ではない事を悟る。
「触っただけで解るなんて…慎太がいれば、医者いらず…かもね」
「…体温に関しては、敏感だからな。俺ら人狼は…」
布団にうずくまりながら、彼女は冗談半分でいう。
それに対して複雑な想いはありつつも、彼女のために必死で笑顔を作った。
「…にしても、風邪は風邪だ。早い所治して、バイト代わってくれた吉田にお礼を言いに行けよ?」
「ん…そうだね…」
暖乃の頬に触れながらそう口にすると、彼女はようやく穏やかな笑みを見せてくれた。
…さて、お粥でも作ってやるか…
暖乃が眠りについた後、俺は彼女の部屋の台所を借りてお粥を作る事にした。
ふさぎ込む…か。今日は、“この間”みたいにひどくなさそうだから…少し安心したな…
作業をしながら、俺は独り考え事をしていた。この時、俺はその“この間”――――暖乃が以前、体調不良になった際の事を思い返していた。
「もしもし…暖乃か?」
その日、携帯電話にかかってきた番号が暖乃のものだったので、俺はすぐさま通話ボタンを押した。
しかし、彼女の第一声はすぐには発せられなかった。
『…来て…』
「え…?」
30秒程経過してようやく、彼女の肉声が携帯電話越しに響いてくる。
しかし、その声は小さくてはっきりとは聞き取れない。
『うちに来て…。今…すぐに…!!』
「暖乃…!!?」
電話なのでどんな表情かはわからないが、声音からしてただ事ではないのはすぐに分かった。
その直後に電話が切れ、何か嫌な予感がした俺は、今日のように走り出す。本当は人狼(どうほう)からの呼び出しがあったのだが、この時の俺はそれどころではない。メールで断りの連絡をした直後、真っ直ぐ彼女の家に向かった。
「暖乃…?」
家に到着後、戸は施錠されていなかったので、ノックだけして静かに入った。
部屋の中は明かりがついていないため真っ暗だ。しかし、人狼である事もあり、夜目には慣れている。そのため、部屋の隅っこに蹲っている彼女をすぐに見つける事ができた。
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