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「へーへー…。あ、そうだ」
暖乃の愚痴を聞き流しながら、俺はある事を思い出す。
「まぁ、頑張れば今夜は…楽しい鍋だろ?」
「あ…!」
俺の言葉を聞いた彼女は、自分が何を言いたかったのかを理解したようだ。
そうして、満面の笑みを浮かべながら口を開く。
「そうだね!まだ11月とはいえ、夜は寒いしね…!楽しみだなー♪」
「…じゃあ、今日の授業もけっぱらなきゃな?」
「うん!そうだね…!!…って、慎太」
自分の肩くらいしか身長のない彼女を見下ろして言ったつもりだったが、彼女の意地悪そうな笑みを見て我に返る。
「“けっぱら”じゃなくて、“頑張らなくては”…っしょ?」
「あはは、つい…。でも、“っしょ”はお前も使っているんじゃねぇか?」
暖乃に北海道方言を思わず使ったのを指摘されるが、少し悔しくて自分も言い返す。
「“っしょ”は語尾に使われるだけだし、皆知っている言葉だからいいの!でも、やっぱり方言使われると、何言っているのかわからなくなるから嫌なの!」
とても低レベルな話をしているのはわかっているが、こんな途方もない会話が俺たちの日常茶飯事だ。
俺は北海道生まれの北海道育ちだが、彼女は違う。生まれは北海道なのは同じだが、中学・高校を東京で過ごしたため、標準語が身についているようだ。少なくとも小学校の頃は道南にある親の実家付近に住んでいたため、方言は話せない訳でもない。それでも、俺に標準語を話させようとするのは、つきあい始める際、俺が「とある約束を守ってもらう」に対する彼女からの「要望」だからだ。
生粋の北海道民である俺が標準語をしっかりと話すのは容易ではないが、彼女は嫌がる事も面倒とも思わず、親身になって教えてくれる。元々暗記や知識を身に着けるのは得意な方なので、割とすぐに覚える事ができたのである。そのため、俺が求めた要求よりもずっと軽くさえ感じるのだ。
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