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そうして、一日が終わり、夜になる。月明かりが照らす中、俺は札幌市内にある自宅にいた。
「うし、完成!」
「わお…美味しそうだね♪」
俺は、出来上がった鍋をこたつの上に敷いた鍋敷き代わりの布の上に乗せた。
近くには暖乃がいる。今日は二人で久しぶりに、鍋を作って食べようという約束だったのだ。
「いただきます!」
「…いただきます」
両手を合わせて、俺達は暖かい豆乳鍋を食べ始める。
黙々と食べる中、最初に沈黙を破ったのは、暖乃だった。
「狼と…」
「…暖乃…!?」
彼女が口にした言葉に、俺は普通以上の反応を見せる。
「狼の本能と、人間の理性の両方があるのって…どんなかんじ…なのかな?」
「…っ…!!」
俺に対し、真っ直ぐな瞳で問いかける暖乃。
普通の日本人であるはずだが、彼女の黒い瞳は何か逃れられないような「何か」を感じてしまう。
アイヌの血を引くから…か…?
俺は心の中でそう思いながら、彼女の問いに答える。
「今は制御できるようになったが…中学・高校の頃はとりわけ、抑えるのがきつい時期でもあった…。暖乃が知るように、エゾオオカミの血を引く俺は…人間と同じ“感情”がある故に、その起伏によって、狼の部位が視認できるくらい見えてしまう事もある」
「中学・高校…か。人間にとって、最も思春期といえる時期…。確かに、不安定にはなるよね…」
「…そうか、お前も…」
彼女の憂いに満ちた表情を見た途端、俺は複雑な表情をしながら俯いた。
その後、夕飯を食べ終えて片づけも終わらせた俺達は、床に就く。布団が一式しかないという理由もあるが、恋人同士である俺らが一緒に寝るのはごく自然な事として受け入れられている。
暖かいな…
暖乃を後ろから抱きしめながら、俺はいつもそう思う。身長が150㎝しかない彼女は、175㎝ある俺の体にすっぽりとはまってしまう。まるで、抱き枕を抱えて寝ているようなものだ。
「…慎太」
すると、か細い声で俺の名が呼ばれる。
どうやら、まだ眠りについていなかったようだ。俺が抱きしめている腕の力を緩めると、彼女はゆっくりと体を動かしながら、顔を自分の方へと向けて来る。
「…眠れないのか?」
「…うん」
そう答えた彼女の瞳が、少し潤んだような気がした。
普段は明朗快活な女子大生だが、時折見せる弱気な部分。「彼女のどこが好きか」と尋ねられたら、そこを答えるだろう。
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