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「…でも、不思議だよね。慎太と一緒にいると…」
「なんだよ、いきなり…」
「だって…」
俺が苦笑いを浮かべると、彼女は口を濁しながら話し続ける。
「中学・高校時のいじめ以来、誰からも…両親すらも、触られたくない…って思っていたのに…不思議」
弱弱しい声ながらも、その真っ直ぐな瞳は俺を確実に捉えていた。
「俺も…不思議だらけだ」
「慎太…?」
俺は低い声で呟きながら、暖乃をゆっくりと抱き寄せた。
声が小さかったため、俺の呟きが彼女の耳に届く事はない。
「…もう寝ようぜ。眠れないっていうなら、お前が寝るまで、俺がこうしてやるから…」
「慎太…。ふふ、くすぐったい…」
俺はゆっくりとその髪を撫でる。
彼女は猫みたいに気持ちよさそうな笑みを浮かべる。そんな表情を見た俺は、「これなら大丈夫そうだ」と悟り、何も言わぬまま、彼女の頬にキスをした。
「…おやすみ、暖乃」
「おやすみなさい…慎太…」
そう互いに挨拶した後、彼女は瞳を閉じる。
髪の毛を優しく撫でながら、彼女が眠りについたのを確認できた後、俺も瞳を閉じたのである。
それから時間が経ち、デジタル時計の数値が夜中の2時を回った頃―――――――
「わおーーーーーーーーーーん…」
窓の外から、犬の遠吠えが聞こえてくる。
普通の人からすれば、それは単なる「犬の遠吠え」にしか聴こえないだろう。しかし、俺にとっての「その声」は違った。
遠吠えを聞いた俺は、すぐに瞳を大きく見開いた。この場にいるのが自分一人だったら、反射的に飛び起きるだろうが、今日は暖乃がいる。そのため、彼女を起こさないようにそっと起き上った。
「…いってくる」
独りごとのように言ったものの、視線は布団の中で眠る彼女にあった。
それと同時に布団の中にある細い指が僅かに反応していたが、部屋が暗いのもあってそれは流石に見えなかったのである。
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