日常

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『…うるせぇな…』 俺は、今の言葉で、少しふてくされた気分になる。 狼なので表情の変化はわからないが、小馬鹿にされているような気がしたからだ。 『さて…。無駄話はさっさと終わりにして、行くぞ』 灰色の狼は俺らにそう告げて、その場から走り出す。 使命――――――という単語は大げさに聞こえるかもしれないが、俺らにとってはそうでもない。人狼である俺達は、自分たちも含める狼一族全体の繁栄のため、より暮らしやすい土地を探すなど生きるための策を尽くすのが使命だ。特に人狼は人間社会に溶け込み知恵を得る事が可能なため、重要視されている。 ただし、そんな中でも俺は特に重要な使命を持っていた。  血を絶やさないためにも、同じ人狼の雌との間に子供を産むこと…か 翌日、大学の食堂で昼食を食べながら、俺は自分の使命の事を考えていた。この使命を持つ理由はただ一つ。自分が人間の間では絶滅したとされる北海道の亜種・エゾオオカミの唯一の末裔だからだ。自分が死ねば、本当の意味でエゾオオカミは絶滅してしまう。それは、結束力の高い狼族としてもあまり好ましくない状況のため、俺は大学卒業後の進路は決まっているも同然だ。普通の人狼だったら、生活の都合上で人間とかかわり合う事が多いので、人間との間に子供を設ける事は禁止されていない。しかし、人間との間に生まれた子供は時が経つにつれて、狼の血が薄くなるらしい。そのため俺だけに限らない話だが、絶滅寸前の種族に対しては、亜種は違っても同じ人狼同士で夫婦にならなければならない。  …幼い頃から、嫌というほどに己の立場は教えられてきたから、よく解っている。…だが…! 心の中で嘆きながら、俺は自分のおでこに手を当てて俯く。 この時、脳裏には暖乃の顔が浮かんでいた。 「そんなに好き…なんだナ。その娘の事ガ…」 「あ…!」 「隣…いいか?」 その時、聞き覚えのある声に対して顔をあげる。 俺の目の前には、茶髪で碧眼を持つ留学生がラーメンを乗せたトレーを持って立っている。 「り…じゃねぇ。クレスタ…いいぜ」 俺は、そのクレスタという外人に対し、そう口にする。 すると、留学生の青年は自分の隣に座った。 彼は、年齢は1学年上だが、留学生なので友人同然のようなものだ。しかし、それは「昼間」における関係であった。
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