日常

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『…俺ら人狼だって、人間と同じように心がある。だから、異性に対して興味関心を持つ事は悪い事ではない…。だが…』 彼はラーメンを食べながら、俺に精神感応能力・テレパシーで話しかけてくる。 本人が自分でいうように、彼も自分と同じ人狼族の一人。また、昨夜会っていた同胞の中でもリーダーに当たり、灰色の毛を持ち五大湖やカナダに生息する亜種――――ネブラスカオオカミだ。また、人狼の能力として、相手が考えている言葉を聞き取れる力がある。これは狼に変身している際の会話に利用できるし、人間の姿をしている際にも効果を発揮できる。ただし、好き勝手に相手の考えが読める訳ではなく、会話と同じでやろうと思った時にだけ能力が発揮されるのだ。 『いくらあの娘がアイヌの血を引くとはいえ、お前と一生を寄り添う事は…許されない』 『頭では…解っているんだ。俺は、あいつと結ばれない運命だって事…』 俺は俯いたまま、クレスタの言葉に応える。 実は偶然ではあるが、クレスタは暖乃と面識がある。どうやら、彼らには共通の友達がいるらしい。そのため、俺の恋人でもある彼女がどんな外見・性格・生い立ちなのかをある程度把握しているのである。 「それでも、俺にとってのあいつは…!!!」 気が付けば俺は、心の中での会話を忘れ、己が抱える想いを声に出して言い放とうとしていた。 「“運命の女性(ひと)”…か…」 俺が心の中で考えている事を読み取ったクレスタが、憂いを帯びた表情でそっと呟く。 「あいつだけなんだ…。俺が普通じゃないと解っても、側にいてくれた奴は…!!」 そう口にする俺の胸は、締め付けられるように苦しい。 それは当然だ。これだけ愛しい。大好きという気持ちが強いのに、結ばれる事は許されない。多分、こっそり駆け落ちしようとしたら、同胞によって引き離されるか…最悪、彼女は殺されてしまうだろう。 『…それに、仮に人狼(われわれ)が認めた所で、今度は娘の親族が許さないのでは?アイヌ人にとってのお前たちエゾオオカミは、“神”として崇められている神聖な存在なのだカラ…』
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