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酒の勢いとは……
友人以外で誰かと一緒に食事をしたのは、久しぶりだった。
誠二より一回りも年下の大学生のくせに……聞き上手で、かなり余計なことまで話したような気がする。
実家で実兄と折り合いがとても悪いこと。誠二の婚約者と一緒に買ったマンションが放置してあること。その婚約者が何食わぬ顔で、兄嫁として紹介されたこと。
母が兄を信頼しきっていること。
年下に愚痴を言うのもどうかと思うこともなく、つらつらと話していた。
「明日には部屋に風を入れに、行かなきゃなぁ……。いずれ売るにしても手入れはしないと」
「せっかく買ったのに売るんですか? もったいないですね。実はその場所から大学までの距離が近いんですよ。とはいえ、確かに一人で家族用マンションに住むのは広すぎますよねぇ」
元婚約者には未練の欠片もない。
けれど購入したマンションは、人を見る目がない己の象徴のようだ。そうそうに売ってしまいたいと思っていた。
「誠二さん、売るにしても簡単に売れるわけでもないでしょう? なら、僕の大学卒業まででいいので、シェアしましょう」
「ん? どういう?」
遥人はにっこり笑う。
「シェアハウスです。もちろん、家事や家賃は話し合いで決めましょう。……困りますか?」
「…………いや、困ることはないけど」
けど同性で年下と同居というのもどうなんだろうと続けようとしたところで、遥人に話を切られた。
「それなら、一緒に住んでもいいですか?」
期待のまなざし。
大学生でアルバイトをしていることを思えば、節約できるならしたいと言ったところだろうか。
誠二は昔から子犬に弱い性格だ。
いまさら嫌だとは、言い出すことはできない。
仕方なく誠二は、その話に頷く。
「ありがとうございます!」
その笑顔はやはり子犬のようだった。
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