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あれから数日後
「誠二さんお帰りなさい。今夜はどうします?」
この新婚さんのようなやり取りは、決して甘いものではない。
実家から、この家族用マンションに移り住んだ時に大切なことを誠二は言い忘れていた。
「ご飯は炊けるようになったから、みそ汁の作り方を教えて欲しい」
そう。誠二は家事全般が全くできなかった。
いまどき珍しいだろう。母が台所に入らせてくれなかったせいもある。
それから元婚約者が料理上手だったことも、覚えようという気をなくす原因だった。
引っ越しした時の遥人は、とても面白そうに笑っていた。
「いやいや、家事全般ができないって聞いたことないですよ。じゃ、家賃安くしてもらう代わりに家事を僕から習いますか?」
冗談交じりの話だったけど、誠二も困っていたことなので言葉に甘えることにした。
家賃を半分以下にして、家事を一緒にする。
朝と夕は並んでエプロンして、料理をすることが日課になった。
「最初のご飯の炊き具合はすごかったですよね。米をそのまま炊こうとしたり、芯が残っていたり、おかゆになったり……」
ご飯ひとつでも結構難しいものだと誠二は思った。
これからまた、結婚を考える相手に出会えるとしても家事は分担できるようにしたい。
「遥人はそれでも食べてくれたな」
「食べ物は粗末にしたくないので。さて、みそ汁ですがーー」
そんな感じで今夜の料理教室が行われた。
この同居は一体なんと言えばいいのだろうか?
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