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転職を考える
三十歳後半になると転職も難しい。
しかも家業を継いだようなものだから、社会経験も足りないだろう。
それでもずっとこのまま、兄に利用されていくのは嫌だった。
「それで誠二、お前さえよければうちに来ないか」
久しぶりに友人と外食をしているときに、そう提案された。
「それって……?」
「うち農業だけど、正社員として人を探しているんだ。ただ仕事がハードでなかなか従業員が定着してくれない」
正社員の言葉に誠二は強く惹かれた。
今も正社員だけど、兄から縁を切れるチャンスかもしれない。
力仕事なら普段からしているから大丈夫。
そう考えつつ、梅酒を飲む。
「その話を真剣に考えてもいいか?」
「もちろん」
高校からの付き合い。信頼できる友人。
人を騙すようなことはしない。
(なら、これは逃しちゃいけないだろう)
詳しく聞くと、有機野菜を作っているから手間がかかり大変だという。
だからこそ手が足りない。
「その話、受けさせてもらえないだろうか。正式に働きたい」
「頼りにしてる。よろしくな」
その言葉と共に、誠二の目の前に大量の資料が置かれた。
「これ、有機農法の資料。前もって勉強してくれ」
準備の良さに驚く。
誠二が断るとは考えていなかった、とのちに知ることになる。
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