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けれど、今、口を開けば泣いてしまう。
お願いだから、そっとしておいて欲しい。
「大丈夫です。何でもありません」
私は、素っ気なくそう言って話を終わらせようとした。
なのに……
「よかったら、飲みに行きませんか? 奢りますよ」
喜多見さんは、優しい笑顔でそう誘う。
無口で真面目な喜多見さんの笑顔を見たのは、この時が初めてだったかもしれない。
飲みに誘われるのも、もちろん初めて。
普段なら、絶対に行かなかったと思う。
でも、この日は、失恋の翌日。
ひとりでいるのが辛くて、誰かに一緒にいて欲しかった。
それが、たとえアウト オブ 眼中の喜多見さんでも。
だから、
「奢ってくれるんですか? じゃあ、行きます」
なんて、不遜な返事をした。
今、思えば、嫌な小娘よね。
1時間後、私たちは、定時で上がり、会社を後にする。
喜多見さんは、駅近くのダイニングバーに連れて来てくれた。
「へぇ~、こんなお店、あったんですね。
初めて来ました。
喜多見さんは、ここ、よく来るんですか?」
私は、店内を見回しながら尋ねる。
板壁の落ち着いた内装は、カントリー風のアットホームな印象を受ける。
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