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不妊治療を始めてから、1年後、純ちゃんは言った。
「そんなにお金をかけてまで、子供って必要?
2人だけで生きていくのはダメなのかな?」
なんでそんなこと言うの?
純ちゃんは、子供、欲しくないの?
子供が欲しくて仕方ない私は、逆にこう質問する。
「純ちゃん、もし、今、ここに子供がいたとして、誘拐されて身代金500万円を要求されたら、どうする? たかが500万なのに、勿体ないから、払わない?」
それを聞いた純ちゃんは、パッと顔色を変えた。
「それは、払うよ。当たり前だろ」
彼の真剣な表情を見て、私は畳み掛ける。
「じゃあ、まだ見ぬ我が子の命のために500万くらい使っても、命の値段だとは思えない?」
それから、純ちゃんは、何も言わなくなった。
治療にも積極的に参加し、顕微受精が続いても、金銭面の事は何も言わず、採卵日には半休を取って病院に来てくれた。
私は、それから2年半治療を続け、29歳でようやく妊娠する事ができ、30歳で長女を出産した。
私は、幸せの絶頂にいると思ってた。
今も、決して不幸せなわけじゃない。
優しい夫がいて、かわいい娘がいて、円満な家庭がある。
ママ友がいて、パートで気楽に働いて、気晴らしもできる。
だけど、寂しい。
純ちゃんにとって、私はいつから女じゃなくなったの?
こんなにあなたに恋い焦がれたのは、初めてかもしれない……
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