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第1章
あれは、しとしとと雨が降る日のことだった。
「ここで、まっていてね」
お母さんから言われて、私はこくんと頷いた。新しいピンクの傘を買ってもらって、新しい黄色のレインコートを買ってもらって、久しぶりのお出かけにご機嫌だった私は、どこかしらない建物の前でお母さんが帰ってくるのを待った。
ひたすら待った。
ずっと、ずっと待った。
でも、そのうち疲れてしまって、その場に座り込んだ。
雨がやんでも、夜になってもお母さんは帰ってこなかった。
私は傘を閉じて柄を抱え、そっと目を閉じた。びしょ濡れのレインコートが冷たくて、くしゅんとくしゃみが一つ。
早く帰ってこないかな、お母さん。
普段、ろくに服も買ってくれないお母さんが新品のものを買い与えてくれたこと。
「まっていてね」と言った後に強く強く抱きしめてくれたこと。
久しぶりに感じたお母さんのぬくもりが、あの時で最後になってしまうのだと、幼心にわかっていたのだろうなと、今なら思う。
目を開けると、とても体がだるかった。おなかは空いたし、瞼は重い。熱があるようだ。
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