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母さんの笑顔は世界一きれいだと僕は思う。
この男は、そんな母さんの優しさも解らずに母さんを苛めてばかり、僕は許さない。
母さんは僕が守るんだ。ううん、僕が守らないと。
その日から明人の夢は3人の楽しい場面から、その男をやっつける場面へと変わっていた。
母さんは優しすぎるんだよ。
眠らないつもりだったのに、僕は又いつの間にか寝てた。側で本を読んでくれてた母さんが居なかった。
(母さん、母さん、)
僕は目を擦りながら起き上がると隣の部屋から父さんの押し殺したような声がボソボソと聞こえてきた。
それは、話してるのではなく怒鳴りたいのを堪えながら出してる声だった。
明人の耳には大声で怒鳴り散らす声に聞こえてた。
(何度言ったらコイツは解るんだ。お前が大声を出したら母さんが又、朝から謝って回るんだぞ)
握り締めてた毛布がさざ波打ってた。
(母さんっ)
母さんが心配に成った、母さんの声が聞こえない、又怪我をしてるんじゃあ、又歯を食い縛り泣くのを我慢して居るんじゃ、明人は立ち上がって襖を開けた。
母さんは乱れた額の髪を直してた。その回りに乱れ散らばった物、振り返った男の酒に酔った赤い顔、だらしない半開きな口元、ドロンと淀んだ目、又母さんを苛めたんだ。
体が震えた。悔しかった、この男にではなく
(母さんは僕が守る)
と誓ったのにいつの間にか寝てしまった自分に悔しかった。守れなかった、自分が悔しかった。
1歩踏み出そうとした明人に怒鳴り声が響いた。
「寝ろっ、何時までも起きてるんじゃない」
ビクッと出した足が宙で止まった。
「明人、もう寝ようね」
と母さんが立ち上がろうとした。
「ダメだ、もう一緒に寝る年じゃないだろう、1人で寝ろっ!」
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