序章ー世界は何の為にあるー

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そこには、音も光もなかった。 ただただ、真っ暗な場所。 地面か床か、何かの上に自分が倒れている事だけは理解できた。 銀色の短い髪に紫色の瞳を持つ少年は、自分が命の危機に瀕していた事を思い出す。 「」 『俺は死んだのか?』と口を次いで喋ったと思ったが、口が動いた感覚はあっても"自分の声"は耳に届かなかった。 まるで無の世界だ。 否、無なら触覚がある事が妙だ。 心臓が動いている感覚も、危機に貧していた時に感じていた肉体の痛みもある。 『まだガキか、面白い』 脳に直接声を叩き付けられたような感覚に、思わず飛び起きる。 「」 『誰だ!』と叫んだが、先程と同様に自分の声は届かない。 『慌てるな、ここに"音"はない。思考に頼れば我に聞こえる』 脳で話せという事らしいが、ならば『聞こえる』という表現はどうなのかと少年は考える。 途端に脳に響く笑い声。 『こんな状況でそういう思考が働くとは面白い』 『こちとらクソ理不尽で生きてきてるんだ、今更この程度でビビるかよ』 脳に響く何者かの声に、思考で返す少年。 『順応も早いな』 声の主は面白そうに笑う。 『ガキ、名は何という?』 『村人A』 『なに?』 『異世界のゲームとやらでは、俺のような奴をそう呼ぶらしい』 卑屈に思考してみせる少年に、声の主は『ふむ』と悩む。 『グレイだ。グレイ・フール』 声の主が呼び方に悩んでいると察した少年は自らをグレイと名乗る。 『あんたは"何者"だ?』 次は自分の番と少年、名前ではなく存在を尋ねた。 『そうきたか』と声の主は再度笑い、『そうだな。敢えて言うなら』と間を置く。 『魔王だ』 声の主は、脳内に響く声色に威厳を持たせてそう言った。
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